おいしそうな苗字
概要
飯、昆布、竹ノ子、桃、銀杏、素麺、菓子これらは名字として実際に存在するお名前ですが、こうした食に係る名字というのはどういった経緯でつけられていったのでしょうか。
生活と密接にかかわる食であるからこそその苗字に隠された深い歴史が見えてきます。
食材関わって生きていた
食材を扱う仕事をしていたかたが付けたとされえる名字は多くあります。
しかも調べていくとある特定の地域にこうした名前が集中していることもわかります。
身近生活に密着していた
飯さんはお米に関わる仕事をされていたご先祖さまが付けた名字と考えられています。
飯には「めし」と「いい」という読み方がありますが、
「いい」はもともと井伊と書いていたようで、「井」は用水路をさす字になります。
それが飯井⇒飯と変化していったと考えられています。
またその食材が近くに生育していたためにつけらえたお名前もあります。
竹ノ子さんは青森県八戸市にあるお名前ですが、
その地域の竹ノ子さんのおうちに伝わる由来によると、家の裏に竹の子が生えており、そこから名乗ったものだそうです。
銀杏や桃などもそうしたことが由来のようです。
食に関わる名前が多い地域
富山県新湊には食の名字が多く、味噌さん、酢さんの他にも、菓子さん、素麺さん、魚さんなど珍しいお名前が多く存在します。
この新湊という地域は江戸時代日本の中心地から北海道まで各地を回った北前船の航路であり、江戸や京大阪の大都市へ様々な食材を運んだ中継地でした。
つまり日本全国様々な地域から様々な特産品が集まった地域だったのです。
当然全国各地からからあらゆる食材の商人が訪れにぎわいました。
そのため当時その商品を扱った方々がそのまま苗字として名乗ったことが多かったようです。
流通ルートと符合する分布
同じようにその食材の流通に関わったことが由来とみられるお名前もあります。
昆布さんと昆布の関係は、昆布の流通ルートをたどると見えてきます。
昆布は江戸時代に北海道航路が開拓され上方に流通し始めました。
そうして北海道でとれた昆布が松前から福井の敦賀港に航路で輸送され、
その後行商されつつ陸路で京都、大阪、奈良などに運ばれました。
現代でも昆布さんが住んでいる地域はこの北海道、福井、京都、大阪、奈良に限られており、
関東ではまずいらっしゃらないお名前なのです。
その他にも加工食品には同じ由来でつけられた食材苗字が多くあります。
例えば清酒、酒、干物、素麺、海苔などです。
おもてなしにより拝領
日本人と言えば「おもてなし文化」。そうしたおもてなしの心から名字を賜ったというエピソードも多く存在します。
昔の偉い人は金銀の他に褒美として名字を下賜することが多く、
偉い人をおもてなしした際に苗字を賜ることもあったようです。そうした名字をいくつかご紹介します。
香茸さん
福岡県にあるお名前。江戸時代、ご先祖様が比護藩主細川家のお殿様を茶屋へ案内したところ、とても良い香りがするキノコを料理して振舞ったところよろこんだ領主様が褒美として「香茸」という名字を授かったことが由来。
由来となる香茸はあまり耳にしませんが、実際に存在するキノコでマツタケよりも珍しいもののようです。
餅さん
宮城県にお殿様に休む場所を提供した際に、餅を提供したら、
「こんなにうまい餅を食べたことが無い」と喜ばれ、餅という名字を賜ったそうです。
黒豆さん
大分県にお住いのお名前。平安時代に貴族が立ち寄ったときに黒豆を献上したら、その村民へ黒豆という名字を賜った。
他にも探せばきっと同様の由来のお名前があると思いますが、昔はそれほど苗字をいただくということは大変なことだったようです。
調味料の名字
調味料の代表は「サシスセソ」ですがそれらすべてに苗字が存在しました。
なぜ調味料が苗字に
江戸時代になると庶民も豊かになり、調味料が広がりを見せます。庶民に広がった調味料の名前はそこに携わる人が増えることも意味します。
例えば味噌などは室町時代給料の一部として味噌は配られることもあるほど貴重なものでした。
また保存食であり基本的には戦場で重宝される食糧として利用されていたため庶民には渡りませんでした。
それが江戸時代豊かになった庶民にようやっと手が届くことになります。
こうした時代背景から名字となった調味料もあったようです。
砂糖さんの驚くべき由来
宮崎県日南市の郷土料理飫肥の天ぷら(魚のすり身と豆腐をすり合わせて揚げた料理:さつま揚げ)
甘みを出すのに黒砂糖が使われているが、この砂糖という名字がこの宮崎県には実在します。
砂糖さんの先祖は宮崎県で砂糖を作っていた方。江戸時代に飫肥藩では砂糖の作成が盛んだったが、
この藩内でもっともよい砂糖をつくると褒められ、褒美として大島(領地)か砂糖姓かいずれかを与えるといわれると、
このご先祖様は砂糖姓を選んだそうです。
またこの地域には飫肥藩で最初に砂糖の育成に成功した人物がご先祖様のお宅があり、
そのお宅の名字が砂糖元(さともと)さんというこれまた珍しいお名前です
なぜ砂糖元さんこのご先祖が砂糖を作り始めたかというと、ある薩摩の藩士が脱藩して行き倒れになっていたところを助けた際に、お礼としてサトウキビをいただいたそうです。
その後サトウキビを育成して作ったのが黒砂糖の始まりと言われています。その後できた黒砂糖を殿様に献上し砂糖元という名字をいただいたようです。
サシスセソの由来
他にも塩さんは茨城県、醤油さんは醤油生産量全国一位の千葉県、酢は富山県となり、「サシスセソ」と言われる調味料は全て苗字として存在します。
- サ→砂糖さん:宮崎県
- シ→塩さん:茨城県
- ス→酢さん:富山県
- セ→醤油さん:千葉県
- ソ→味噌さん:北海道、富山県
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魚貝系の名字
平目さん、烏賊さん、海老さん、蛸(たこ)さん、鱒(ます)さん、鱸(すずき)さん、鯛(たい)さん、鯨(くじら)さんなど。
これら漁師がなったのかと思いきや面白い由来エピソードのお名前がありました。
おめでたい漢字に変更
愛知県に鱸さんはもともと鈴木だったが、手柄を立てた際に殿様にめでたい方の鱸を名乗るように言われたようです。
鯨さんは栃木県の鬼怒川にお住いの方による由来は、かつて鯨といわれる地名があり、その地名を名乗ったといわれている。
また別の説としては「くじる」という言葉に「えぐる」という意味がある。
実際鬼怒川付近小貝川には「鯨」という地名があり、過去川の氾濫により土がえぐられたためつけられたと考えられる。その地名から名字に使われたのではないかという説もある。
歴史的事件の記憶として
北海道にいる海から8キロほど内陸になる平取町にいらっしゃる苗字。
ここでは約400年ほど前に発生した地震により、大きな津波が襲ったことがあり、水が引いた跡木の枝にヒラメが引っかかったそうで、それを名字として付けたそうです。
同じ地区では貝が流れ着いたことから貝澤さんという名前を名乗った方もいるようです。
偶然食材と同じ読み方になった名前
同じ名前の食材とかかわりのあるお名前を紹介してきましたが、
実は食材の苗字には意図せず偶然同じ読み方になってしまったという名字もあるようです。
九(いちじく)さん、万合(まんごう)さんなどです。
※この記事はNHK2017/11/9放送の人名探求バラエティー 日本人のおなまえっ!を参考に追加取材して作成されています。
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